“心の音色”  『音での10のお題』より

 


  ――― ただ一人でいい。
       あなたさえいてくれれば私は満たされる。
       だから、他は要らない。




  ◇  ◇  ◇



 気がつけば“はぁあ”という遣る瀬ない溜息が零れてばかりいる。何にも手につかないままだし、授業なんて全然 頭に入らない。窓から望める外の景色には、その色づきが判りやすい落葉樹が見える訳でもないのに。空の高さや陽射しの透明感から、ああもう秋なんだなというその訪れがありあり判る。
“…いい天気だなぁ。”
 どうにも散漫で、それでいて…とあることへだけは、近づかぬようにという意識がやたら鋭敏に立っていて。でもね、あのね? そんなの無駄な抵抗だって、誰よりも自分で重々判ってる。無意識のまま、唇に当ててたシャープペンのノック。かしと齧った瀬那の眉が寄る。


  ―― 進さんと喧嘩した。


 それも、とってもお馬鹿なことで。けど、今だからそうと思えるのであって、その時はそうだとは思えなかった。何であんなことへムキになったんだろ。それこそ“あ、そうですよね”なんて、いつもみたく折れてればよかったのにね。

 “それだと理屈がおかしかった、からかな?”

 放課後の部活の練習だけは、何とか集中力を振り絞ってあたった。というか、蛭魔さんが振りかざすマシンガンの、けたたましい掃射音に追い立てられてる間は、他のことなんて入り込む隙がなかったから。優先順位があっさり入れ替わっての、物思いさえ追いやってくれていたのだけれど。あれほど思い詰めてたことだのに、そんな順番だったんだという事実もまた、
“うう…。”
 セナに小さな溜息をつかせる始末だったりし。

  「どうしたの? 何だか憂鬱そうだよね?」
  「え? ※●□×○っっ!」

 いきなり掛けられたお声へ、何の警戒も気構えもないまま、無造作にお顔を向けたセナだったけれど。そこにいたのが部員仲間じゃなかったものだから。それどころか、今のセナにはある意味で心臓に悪い属性の、意外な人物だったから。どっひゃあと驚いての後ずされば、

  「…ったくよ。上の空で練習こなそうとはいい度胸だ。」
  「ひぃいぃぃ〜〜っ!」

 いかにも不機嫌そうなお顔で、ぷうとガムを膨らませているお方の懐ろに、とんとぶつかったそのまま身柄を確保されてしまったセナくん、
「蛭魔さん〜〜〜っ。」
「妙な声、上げてんじゃねぇよ。」
 俺が何かとんでもねぇこと無理強いしてるように誤解されようが。そんな言いようをいけしゃあしゃあと口になさっての、
「わわっ!」
 細く見えても強靭な腕を、制服に着替えていたセナの脇から肩口へと回すと、がっちりホールドしてしまわれる手際の善さよ。
「そ、そんなぼんやりしてましたか?」
「おうよ。ところどこで全力疾走してなかったろうが。」
 練習への手抜きだけは絶対許さぬ悪魔様。手を抜くなとばかり、きっと怒鳴りもしたろうが、それへ気づいてなかったってことは、彼が言うようにどこかしら気もそぞろだったセナだということに違いなく。

 「すみません〜〜〜。」

 面目次第もございませんと。ひょこり跳ねてる前髪の陰から べしょべしょと力なく垂れちゃったわんこのお耳が見えたような気さえする、思い切りのいい…ついでに何とも愛らしい しょげ返りようへ、

 「まま、蛭魔だって本気で怒っちゃいないから。」

 そこまで落ち込まずにと、執り成すように桜庭が苦笑して。もう他の部員たちの姿はとうに見えなくなっていた部室の一角、何でこんなものがという“備品”の、ルーレットテーブルの周囲を取り巻くスツールへ、桜庭とセナが並んで腰掛け、蛭魔だけはラシャ張りのテーブルの上へと落ち着いて。

 「セナくんが上の空なのは、進と何かあったから、なんだろう?」
 「あ…。」

 どうしてそれを…と、愕然として顔を上げたセナだったのへ、

 「なに。王城
(ウチ)じゃあ進が尋常じゃあなかったもんでね。」

 くつくつと微苦笑を見せるそのお顔も、どこか垢抜けていての決まっているアイドルさん。背丈の小さなセナからすれば、間近に並ぶとお顔を見上げるのが大変なほどの上背と、バランスのいいスタイルに長い脚をした今時風のソフトな二枚目で。甘い笑顔が受けていたものが、今は…スポーツマンであることをだけ肩書にしても遜色がないほど、精悍な青年へと様変わりしつつある売れっ子の芸能人でありながら、

 「あいつに何かあると、
  原因究明からケアまでって全部、僕にお鉢が回ってくるからさ。」

 思い出すのは、いつぞやのハプニング。どんな拍子の何でそうなったのかは判らないが、設定してあった着メロが差し替わっていたものだから、セナからの呼び出しだと気づかぬまま、鳴り続ける携帯に知らん顔をし続けた進だった…という出来事があり。その折に何とかしてくれたのも、そういやこの桜庭だったっけ。その一件の後、
『もしかして、ご実家からの連絡ということだってあるかも知れないのですから。』
 覚えのない着信音でも、一応…せめて誰からかの表示くらい見てはどうかと進言したセナだったのだが。そうしたら、
『案じることはない。』
 進さんが言うには、自宅からの連絡には たまきさんが設定してくれた、進さんもよ〜く知っている曲が流れるようになっているから。だから、それでなければ出る必要もなかろうと、くっきりはっきり断じてしまわれて。相変わらずマイペースなお人だとの認識も高まった、お話であったのだけれども。

 「…喧嘩、しちゃったんです。進さんと。」

 こちらさんも長い脚を組んでの、俺は第三者だからと退屈そうにそっぽを向いてた悪魔様の。上になってて揺らされていた脚が…ぴたりと止まる。
「喧嘩、だと?」
 確かめるように聞き返されたのへ、溜息をつきつつ こくりと頷いて、

 「昨日Q街で、あのあの、待ち合わせてたんですけれど。」

 月刊アメフト主催で、Xリーグ所属の有名なコーチ陣が監修したトレーニングDVDの発売イベントがあったので。それを買いにとそれから、そこで配られることになっていた、アメフトイベント“川崎フェスティバル”のチケットをもらおうと。わくわくと待ち合わせていた筈だったのにね。
「Pスポーツの前でっていう待ち合わせだったんですけれど…。」
 あんまり思い出したくはないこと。だってやっぱり、どこかで納得が行かないから。お店の奥まったところ、いつもなら大画面プロジェクターに過去の名ゲームのビデオを流してるミニシアターがイベント会場になっており、お店の人がそこへと入れる整理券を配っていたのだけれど。それが野球やサッカーほどメジャーなスポーツではないと店員さんたちが甘く見越したのか、ちゃんとした行列が出来ぬまま、来店者たちは適当に入り口へと流れてくそのまま捌かれていて。

  ―― で。

 「それなりの順番っていうか、
  来た人からっていう順は何とか守られてたんですが…。」
 「途中から、よく判ってない奴らが何だなんだって加わり出した。」
 「………はい?」

 意外なお答えが間近から立って。顔を上げると、蛭魔が呆れたような顔をしている。
「向かいのビルの喫茶店(サテン)にいたもんでな。」
「あ…。」
 丁度お向かいのプラザビルの上階、Pスポーツが見下ろせる位置に、ガラス張りの結構広いラウンジタイプの喫茶店がそういやあったなと、セナにも合点はいって、
「見えてましたか。」
「ああ。」
 ま、あすこにお前も居ようとは思わなんだがよ。そうと付け足された一言へは、桜庭がこっそり微妙な顔をした。
“…嘘ばっかり。”
 そか、それで途中から上の空になってたヨウイチだったのかと。その喫茶店で同席していたらしいアイドルさんの綺麗な眉が微かに震えたのも、今はさておかれ、

 「…鉢合わせたのが小学生とかだったのへ、先にどうぞって順番を譲ってたら。」
 「はは〜ん。」

 皆まで言わずとも、その先が読めたらしい蛭魔だったのは。セナの気性をよくよく知っているその上で、彼もまた…そういう状況下では、セナよりも進の言動の方が理解出来るタイプだったからだろう。

 『いい加減にしないか。』

 何人も何人にもへ、お先へどうぞと譲りまくりをし。なかなか中へ入って来ないセナだったのを見かねてだろう。そちらさんは先に来ていたらしい仁王様、もとえ、高校最強のラインバッカー様が、威容をまとっての出ておいでになり。我先にと割り込むフラッグフットチームの子ららしきチビさんたちを、凍りつかせての固まらせたその上で、そんな彼らに押しのけられ掛けていたセナへと手を延べ、おいでと促して下さった。

 「ありゃあ見ものだったよな♪
  おっかないお兄さんが出て来たぞってノリでよ。」
 「蛭魔さんてば…。/////////

 そんな彼に“おいで”をされたため、セナまでもがちょいと目立ってしまった一幕があってののち。イベントは無事に始まって、初回版特典Xリーグ所属 全チームのステッカー付きDVDもちゃんと買えたし、フェスティバルへのチケットももらえたし。去年の各世代の日本一決定戦のダイジェストビデオが流されて、クリスマスボウルの決戦の模様もリプレイしていただき、セナが真っ赤になってしまったりもしてからの…さて。

 「進さんたら、
  なんであんなにも後から割り込んで来た人たちを許したのかって言い出して。」

 もういいじゃないですかって。最初は取り合わなかったセナだったのだけれど、

 『小早川は時折、ああいう甘いところがあるだろう。』

 相手のためにもならぬことだと、昨日に限っては懇々と言葉を連ねた進だったので。子供だったし、それに整理券には余裕があったしと、何とか言を濁して躱していたセナだったのが、何だかだんだんと我慢ならなくなって来て。何でボクがお説教されなきゃならないの? 進さんこそ、周囲に全くの全然気を遣わないのに。
『小さい子が大人に押しのけられてたら可哀想じゃないですか。』
『だが、子供らに押しのけられてたのは小早川の方だったろうが。』
『…っ!』
 確かにそうだったけれど、あの間合いでそれを言われては。

 「…そりゃあ、セナくんでも怒るよな。」

 進の言うことはいつだって間違ってはいない。それは進の精神的なところでの強さの礎でもあり、そんな状態を貫き通せていること、素晴らしいと思うのだけれど。曲がったことが嫌いという、その潔白さが…時に目眩しすぎる人でもあって。

 「進さんは強い人だから。」

 関心のあることへはクリア出来るようになるまで諦めず、関心がないことへは出来なくたって動じない。
「進さんほど強い人なら、我を殺さないでいられるのは判ります。人の目だっていちいち気にしないまま、言いたいことも言い通せるんでしょう。でも、普通はそうでばかりもいられない。」
 ああ、昨日はちゃんと言えなかった。何でむかっとしたのかを、ちゃんと進さんへ言えなかった。そんな自分もまた、ちょこっと腹立たしいセナだったりし。
「余計な諍いとかしたくないじゃないですか、普通は。ちょっと我慢すればいいことなら、それで問題起きないなら、そっちを選んだっていいじゃないですか。」
 あんな些細なこと、何でまた蒸し返した進なのか。
“…そうなんだよね。”
 セナとしてはそこも気になっている。セナが少々及び腰なのは、何も昨日に始まったことじゃあない。進がそんな場面を目撃することも勿論あり、昨日そうだったみたいに手を差し伸べてくれて、その話はそれで鳧…となっていたのにね。むむうと膨れていると、

 「普通、普通と振りかざすな。」

 そんな言葉を差し挟んだのは、やはり蛭魔で。
「それってのはつまり、自分可愛やで悪者になりたかねぇから、だろーがよ。」
 ふふんと鼻で笑い飛ばして、
「そんなもんは“美徳”なんかじゃねぇ。俺に言わせりゃ、ただの自己満足、ただの言い訳じゃねぇか。」
「それは…。」
 嫌われたくない者の気持ち、この人には判らないんだろうなと、セナが苦笑する。孤高が似合う、やっぱり強い人だもの。………なんて、思っていたらば、

  「ほれ。そうやって言いたいことを飲み込みやがる。」
  「はや?」

 いつの間にやら、マシンガンが悪魔様の手に握られていて。その銃口が器用にもぐり込み、セナの小さな顎を上げさせる。

 「お前のがただの迎合じゃねぇのは判ってる。」

 拒絶の痛さを重々知っているセナ。小さい頃からのずっと、いじめられっ子だったセナは、それでも…一人ぼっちでいる不安より、遣い回されてるほうがいいと。馬鹿にされても子分にされても我慢して、カタチだけで良いから独りぼっちにだけはされたくなくて、怖い想いをずっとずっと背負って過ごしてた。そんな か弱い想いはあいにくと知らない蛭魔だろうが、
「あ…。」
 蛭魔の傍若無人も、最初の内はどうだったのだろ。さすがに“良心の呵責”とやらとの確執に苦しんだようには見えないが、
“どんな時でも独りで過ごすのって…。”
 寂しいからって、栗田や武蔵へメールとかしたようには思えない。どんなときでも昂然と顔を上げ、胸を張って孤高でいた彼だろうが。だからってそれが常に平気だったのか?

 “進さんみたいに突き抜けてる人は、そうは居ないものな。”

 何より、蛭魔は…判りにくいそれではあるけれど、ちゃんと優しさを見せてもくれるから。弱いものの悲哀とかちゃんと知っていて、それでも頑張る奴に限ってではあるけれど、優しいところ示してくれもする。
“進さんにもそういうところ、あったのに。”
 はふうと溜息を零したセナへ、桜庭がどうどうと宥めるように背中を撫でてやり、
「で、仲直りには何が必要なのかな?」
「何って…。」
 そういう喧嘩だったろか。おややぁ?と小首をかしげたセナへ、
「だから、進が謝れば許してやるとか。川崎のイベント、何が起きてもセナくんを最優先にして一緒に行くとかサ。」
「いやあの、許すとか許さないとか、そういう喧嘩じゃなかったんですが。」
 それはむしろ進さんが言うことじゃないのかなと、セナがやっぱり項垂れた。だって正道を口にしてたのは進の方。そうと認めた途端に、でも…と復活した想いもあって。
「誰へも別け隔て無く強腰でいられる人なんだもの、同じように誰へも優しく接すればいいのに。」
 そんな人なら、延べた手を撥ね除けられても めげないのじゃなかろうか。揺るがぬ強さ、穢れなき潔白を誇る人なんだからと、そんな言いようをするセナへ、

 「いや。進は元から間口は狭い男だよ?」
 「桜庭さん…。」

 その言い方がまた、いかにも憎々しげではないから困りもの。全国区のアイドルさんともなれば、それが悪口でもこんなにこやかに口に出来るもんだろかと、眉を下げもって笑ったセナへ、
「だから。あいつの視野が狭いってのは、セナくんだって重々承知のはずだけど。」
「はい?」
 あらら? 共犯者が欲しい桜庭さんでしょかと、今度はキョトンとお眸々を瞬かせ、ひょこりと小首を傾げるセナへ、

 「あいつが、アメフトとスキルアップのための体力管理以外の、
  年相応の“世間の常識”をどんだけ知らないかってこと。」
 「…あ。」

 今更知らないとは言わせないよ?と、くすすと笑う桜庭とて、何もセナを困らせたくて遠回しな言い方をしたんじゃない。ただ、

 「そこへ、今は“セナくん”っていう要素が増えた。
  僕にしてみりゃ大した進化だと思えるくらいなんだけど?」
 「あやや…。/////////

 真っ赤になった小さな韋駄天くんへ、冷やかしてる訳じゃないんだよと、これは本心から思う。常識を知らないなんて言いようをしたけれど、自分と規格が違うものは人に非ずなんて傲慢なことを思っていた進じゃあなかろうし、困っている人へは彼なりの判断で手を差し伸べもしたのを知ってもいる。ただ、彼の視野にはずっと長いこと誰の姿もなかったみたいで。強くなろうと、能力を伸ばそうと、進にとってのそれは、ただ単に昨日の自分よりも伸び代が増しただけ。もう次のことを、あしたのことを、黙々と目指して止まらない。自分はまだまだ至らぬと、自分とだけ向かい合ってた高校最強。それが…恐らくは初めてだろう、意固地なくらいに こだわった相手。追い抜かれたそのまま“自分の先を駆けている者”とし、自らの手で叩き伏せたいと躍起になってのこだわったのが。黄金世代の諸先輩陣の誰かでもなく、あの百年に一人の天才・阿含でもなく。フィールドから離れるとその途端、何へでも及び腰になってしまうような、

 “心優しいセナくんだった、ってか?”

 アメフトの世界に於いてってだけじゃあなく、
「進にしてみりゃ、たった一人の特別なんだ、セナくんは。」
 他の有象無象がますますどうでもよくなったほどにね。そんな付け足しをされて、
「う…。/////////
 真っ赤になったセナとしては。それでも…帳尻を合わせたい想いがあるらしく。
「誰へも優しいのは、それじゃあ間違ってるんでしょうか。」
 たった一人の“特別”へさえ行き届いていればいいのだろうか。何もかもを満遍なくとは言わないけれど、自分より弱い人へ手を延べるくらいはしたっていいのじゃなかろうかと。そこは外せないらしいセナへ、

 「進だって、そのくらいは心得ていようさ。」

 弱いものを困らせたって何の糧にもならんしな。蛭魔の言いようが時々ちょっと古めかしいのは、随分と遅れて出来た末っ子なので、家族らとの年の差があり過ぎる弊害らしいのだが、それはさておき。

 「ただ。
  誰か独りを大事にすることと、誰へも優しく振る舞うこととは両立しねぇ。」
 「そんな。」
 「どっちも取ろうなんてのは虫が良すぎるぜ?
  お前はそんなに器用な性分だったかよ。」
 「う…。」

 言い淀んだセナへ、どっちかを犠牲にして、せいぜい痛い想いしてみな、なんて。結構きつい言いようをする悪魔様だが、今日は珍しくも正論を語っておいでだ。セナがあまりに…進とは次元が違うところで、進のように真っ直ぐなことを言いつのるものだから、片腹痛くなったらしい。

 “チームの士気に関わるからだ、とか何とか言ってたけれど。”

 真っ当なことを言ってる自身へ気づいているやらいないやら。くすすと微笑った桜庭へ、やり込められてばかりいての八つ当たりか、ちょいと眇め気味の視線を向けて来た韋駄天くん。
「大体、桜庭さんが来てるってのは何なんですよ。」
「おやおや、心外だな。」
 そんな言い方されようとはと、わざとらしくも眸を向いたものの、

 「言ったろ? 王城じゃあ進が尋常じゃあなかったって。」
 「あ…。/////////

 それってつまり…セナとのぎくしゃく仲たがいが原因ってこと?
「進を問い詰めたら、セナくんを怒らせたって言い出すんだよね。しかも…。」


  ―― 我を折るのも大概にしなさいと、
      そういう言いようをしたのへと、
      “進さんなんて もう知りませんっ”と言い捨てられた。


「それって、進の意見へ迎合してはいない態度だったから。言われたことをさっそくやって見せたことになるのじゃなかろうか。正しい実践をして見せたセナなのだとしたら、俺は…どうしたらいいのだろうか、だって。」
「はやや。/////////
 あの進からすがられたなんて、ああ愉快愉快…と。殊更にこやかに微笑う桜庭へ、
「もう…。/////////
 真っ赤っ赤になったセナが、それでも…携帯電話を取り出すと、何やらメールを打ち始める。この二人の前での通話とはさすがに運べなくてのことだろが、そんな後輩さんの手から、スリムなモバイルツールを取り上げた悪魔様、
「あ…っ。」
 何するんですかという抗議の声にも耳を貸さず、その代わりにと自分の携帯を取り出して、

 「…おう、俺だ。今から王城まで行きてぇんでな。タクシー2台、用意しな。」

  あ…。

 「…今のって。葉柱くん?」
 「おうよ。」

 四の五の言う間も与えずに切った蛭魔であり。だが、きっとあと十分もかからずに、オートバイのイグゾーストノイズが聞こえてくるに違いない。
「今からあの不器用もん相手にメールのやり取りなんざ、歯痒いだけだろうがよ。」
 相変わらず、精密機械系に弱い進だと見越しての、蛭魔の取った取り急ぎの策は、

  「本人と面と向かい合って、言い訳しあって仲直りしな。」

 それが一番手っ取り早いと、そのための段取りを取った彼なのだろう。そして、
「タクシーって、まさか。」
「おうよ。バイクだ、バイク。」
 あいつら、まだ18に届いてねぇのに限定解除とか乗ってやがるからな、どれで来やがることか。え〜、ちょっと待ってよ、なんで僕らも行かなきゃなんないの? こんな面白いことの顛末、見届けねぇ手はなかろうよ。

 “…イベント扱いされてるし。”

 他人の難儀を楽しむとはと、口元が思わずへの字に曲がったセナではあったれど。そんなオチにしましたと、薄情な先輩を装っても、あのね? こんな超特急にて何とかしてくれたことには変わりなくって。

 “♪♪♪〜♪ /////////

 ああやっぱり優しいな、蛭魔さん…なんて。他の誰が信じましょうやという恐ろしいこと、にこにこと噛みしめた可愛らしい後輩さんだったらしいです。秋の陽はつるべ落とし、早く出られるといいですね♪





  〜Fine〜  07.10.09.〜10.10.


  *ありゃ、進さんが回想にしか出て来なかったですね。
   しかもしかも、心の音色に触れてない…。
   あれれぇ?(ダメじゃん・苦笑)

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